バンコク最も高い場所にあるBAR。チャオプラヤー川を望む夜景も最高。
サワディーカップ、バンコクナビです。
バンコク在住者にとって、ルブアのDOMEと言えば知らない人は皆無と言えるほど。
シーロム通りのほぼ突き当たり、チャオプラヤー川を望むステートタワーの屋上に広がるレストランやBARなどの総称であり、「バンコクに来たら一度は行っておきたい」とも言われるまさにバンコクのシンボル。
そのDOMEの中でもバンコクで最も高い場所(64階)にあるBARとして、また世界中から選りすぐりの「超一流品」を愉しめるBARとしてその名を知られるBAR「Distil(ディスティル)」をご紹介したいと思います。
こだわりの銘品をさりげなく提供する大人の店
世界中から旅行者が集まるバンコクにはそれこそ星の数ほどBARと呼ばれる形態の店がありますが、そのほとんどは煩い音楽や照明、出されるお酒やカクテルも形を真似ただけで「味」にこだわったお店は皆無に等しく、日本のショットBARやカクテルBARを期待して訪れると期待はずれな結果に終わることがままあります。
そのため、バンコクでは純粋にカクテルやウィスキーを味わいたい場合はホテルのバーを利用するのが通常ですが、それでも多くのホテルは観光客をターゲットにしているためか賑やかさがどうしても滲み出てしまいます。また、幅広い客層をカバーするためにも黒子に徹し、あえて特徴を出さないようにしているように思われます。
しかし、ここ「Distil」はそれらの杞憂や不満を見事に吹き飛ばしてくれる爽快さがあります。
最低限に抑えられた音楽と照明、広々とした高級感あふれる空間作り、そして世界の銘品を“Distil(蒸留)”したスタイルは、ホテル内のBARにも関わらず街角の小さなBARのようにオーナーの個性を強調しているようで面白いかも。
実際、バンコク在住者だけでなく旅行者からも高く評価されており、DOMEという言わば“観光名所”にありながら、流されることなく確固たるポリシーの元、マイペースで営業されています。
落ち着いた大人の雰囲気を追求した店内
遮るものが無いため日中は爽やかに明るい「Distil」の店内ですが、一たび日が落ちるとその特徴的な雰囲気作りへの姿勢が浮かび上がってきます。
入口やカウンター周辺はある程度の明るさが確保されていますが、一旦ソファー席などにドッシリと根を張ってしまうと本当に最低限に抑えられた照明は足許さえもおぼつかないほど。しかし、これが訪れる人それぞれのプライバシーを守っているのだと気付かされます。
中には仲の良いグループで訪れ、お酒が入ったところで少し騒ぎたくなる人も。そういう人のために用意されたのではないかと思えるのが屋外にあるテラス席。
店内から専用の扉を抜けると眼前、眼下に広がる、バンコクの夜景と座り心地の良い大きなソファー。喫煙も可能で灰皿も置かれています。
ソファー席は予約不可能で空席ができれば座ることができるとあって人気が高く、この日も旅行者やカップルで一杯でしたが、一歩室内席に眼を向けると薄明かりに広がる静寂は変わることのないまま。
「Distil」全体の雰囲気を壊さずに訪れる人すべての欲求に応える演出は脱帽!
充実したカクテルのラインアップ
カクテルと一言で言っても本当に星の数ほどのレシピが存在するのは周知の通り。
ナビは今回、クラシックなレシピで「作る人の数だけレシピが存在する」とも言われるマティーニにスポットを当てました。
ジンと少量のベルモットをステアし最後にオリーブを添えるのが一般的ですが、「Distil」の10種類を軽く越えるマティーニのバリエーションの中でも筆頭にあたるのが「The Classic Martini 430B++(手前)」。
ジンは水色の美しい瓶でお馴染み「Bombay Sapphire」を使用しており、その味を純粋に味わって欲しいというわけで、ベルモットの量は本当に最小限に抑えられています。グラスを冷やす際にベルモットを一緒に入れ、香りを付けたらそのまま捨ててしまう。エクストラドライ・マティーニといった趣のかなり硬派な一杯。
ジンの抜けるような香りが口の中に広がり、アルコール度も高いため一気に身体の芯が熱くなってくるのが分かります。食後であればこれだけで満足できそうな一品です。
一方、遊び心を満載した「Chocolate Martini 430B++(奥)」はデザートカクテルとして、また女性にも安心して勧められる一杯。ウォッカをベースに、カカオリキュールやヘイゼルナッツのシロップを使い、グラスの淵はチョコレートパウダーのスノーで彩られています。
ハーゲンダッツでは必ずヘイゼルナッツを選ぶナビとしては至高の一杯。
口当たりも優しく、カカオの香りとチョコのほのかな甘さがウォッカの独特の力強さを押し包んだこのウォッカ・マティーニは思わず口元がほころんだほど。やはり、「Distil」でも非常に人気が高いそう。
今回はマティーニに焦点を当てましたが、「Distil」のメニューをご覧頂ければ、全てのカクテルがベースとなるお酒やリキュールごとに分類されており、オーダーする際に非常に分かりやすくなっています。また、フロアスタッフも親しみやすく、知識も豊富なので気兼ねなく「お勧め」を聞いてみるのもいいかも。
閑話休題。
タイ人に喜ばれるのカクテルは「Mojito(モヒート)410B++」。ミントの葉がたっぷり入って、ライムの香り豊か。タイウィスキー「メコン」(ラムの一種とも言われる)とマナオ(タイのライム)、ミントの葉の組み合わせを思い浮かべ、「タイ人が喜ばないわけは無いな」と妙に納得。
Belvedere IX
さて、この日お勧めいただいたカクテルは、新作(2009年5月現在)の「
Oasis 550B++」と「
Cardamon Mule 450B++」。
「
Oasis」は桃やブドウなどの甘酸っぱいフルーツの香りを楽しめます。
「
Cardamon Mule」は名前から想像できるようにライムをグレープフルーツとカルダモンで置き換えたモスコーミュールの親戚。使用するウォッカはタイでは「Distil」でしか扱っていない最近発売されたばかりの「
Belvedere IX」という高麗人参や生姜のほか様々なスパイスと一緒に蒸留した風変わりなスピリッツ。ハーブやスパイスが味付けの主役となるタイ料理のように、グレープフルーツジュースの酸味と共に広がる複雑な味わいが印象的でした。
タイでスコッチを味わうなら「Distil」
タイでシングルモルト・スコッチを味わうなら「Distilに適うものなし」と言われるほど。店内の壁面の一部は回転式のショーケースになっており、その品揃えに圧倒されます。グレンモーレンジやマッカラン、グレンフィディックといった耳馴染みの蒸留所のシングルモルトから、今はなきポートエレンなど稀少価値のあるものまで。思わず目許がほころぶ御仁も多いかと。
それゆえお値段も推して知るべきと言ったところですが、それでも行く価値があり、確固たる評価を受けているのは何故でしょうか。
正直な話、揃えるだけなら資金さえあれば簡単な話ですが、「Distil」の凄さを感じるのはその一歩先。チェイサーとして出される水もスコットランドから仕入れている水。
何もかもがアバウトなタイでこれほどの「こだわり」を目にすることは正直多くありません。我々、日本人にとってはこれ以上ないセールスポイントにも思えます。
ちなみに、シングルモルトに力を入れるだけあって、ブレンディッドやバーボンなどは軽く触れる程度。というより、あえて排除しているよう。コニャックにはそれなりに選択肢があり楽しめる一方で、アイリッシュ・ウィスキーに至っては触れられもしないのは支配人のポリシーか、潔良いと言うべきか……。
カクテル、スコッチ以外にも
店内には大きくは無いが、それが「Distilのこだわり」とも取れる雰囲気抜群のウォークインのワインセラーもあり、フランスの定番シャトーはもちろん、アルゼンチンやアメリカ(カリフォルニア)、オーストラリアなど世界中からワインやシャンパン、スパークリング・ワインが集められています。
また、ビール党のためにかどうかは定かではないが、ビールもコロナやギネス、シンハ、ハイネケンといったお約束の銘柄が揃っている(あえてMillerを加えている辺りがDistilのただ者ではないところか?)、もちろんノンアルコールカクテルやフルーツジュース、ビールやコーラなどのソフトドリンクも充実しているので下戸でも安心。
お酒だけではない「Distil」ならではのこだわり
店内の一角にはオイスターBARもあります。フランス、オーストラリア、北米から直輸入のカキが思いのほかお手ごろな値段で味わえます。また、同カウンターは寿司カウンターにもなっており、お刺身や巻き物などもオーダーできます。
他にもペトロシアン(Petrossian)のキャビアやサーモン、キューバ産のシガー(葉巻)など、「Distil」で愉しむからこそ様(さま)になる超一流と呼ばれる食材やアイテムが揃えられており、贅沢な非日常を思いっきり満喫できそう。
最後はバンコクの夜景を楽しんでください
ステートタワーの64階から見渡すバンコクは最後のデザートとして最高。DOMEの代名詞とも言える地中海料理の「Sirocco(シロッコ)」とその「SkyBar」を手前に臨みつつ、美味しいお酒、料理、雰囲気を目一杯味わった最後に眺めるバンコクの夜景は何ともいえない心地よさ。
バンコクの数あるBARの中でも最高峰とも言われる理由を心底理解した感があります。
DOMEのオープンから5年近く経ち、当初は物珍しさが先行した感もありますが、世界中の「一流」に触れられる稀有な場所として未だに健在。
それゆえ、デートや遊びなどのプライベートだけでなく、接待などのビジネスシーンにおいても貴重な存在になっています。
以前は西洋人が多かったという客層も現在ではタイ人の割合が増え、純粋にスコッチや葉巻を楽しみに訪れる人も明らかに増えたそう。
タイに住んでみると、我々日本人や欧米人のカクテルやスコッチへの“こだわり”のようなものは多くのタイ人にはなかなか理解しがたいそう。
しかし、あえてその“こだわり”をバンコクで静かに主張し続けてきた「Distil」は今や、タイにおける「BAR文化の発信基地」として寡黙に男らしく、その存在感を高めています。
最後に、BAR「Distil」はナビのような小市民には、おいそれと頻繁に訪れられるほど敷居は低くないけれど、だからこそ訪れる価値のある場所なのかも。
単にお金を使って贅沢をし、それに満足するのではなく「なぜ贅沢に感じられるのか、どこに価値があるのか」を目で、舌で、肌で感じて理解し自分の糧としていく、楽しい「課外授業」を受講してみてはいかがでしょうか。
以上、バンコクナビがお伝えしました。